高齢化の進む日本
日本は高齢化社会の典型例とされており、高齢者の割合が急速に増加しています。これは出生率の低下と平均寿命の延長が主な要因とされています。
高齢者人口の増加により、医療、介護、社会保障などの面で新たな課題が生じています。
内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によると、令和4年度での65歳以上の高齢者は総人口の約29%を占め、その割合は今後も増加すると予測されています。
高齢者が増加する中、働き手の不足や介護の需要が増え、経済や社会構造に大きな影響を与えています。
令和5年版高齢社会白書より引用
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/05pdf_index.html
認知症高齢者の増加
認知症高齢者の増加は世界的な課題となっており、日本も例に漏れずこの問題に直面しています。
認知症発症の主な要因として、下記があげられます。
①高齢者人口の増加
上記の通り、高齢者人口は増加の一途です。
認知症の主要要因が加齢であることを鑑みれば、「高齢者の増加=認知症の発症リスク増大」ということです。
②ライフスタイルの変化
近年の生活様式の変化や食生活の変化、運動不足、慢性的ストレスなどが認知症のリスク要因とされています。
③医療技術の進歩
医療技術の進歩により生存率が向上しています。
これにより、長寿の高齢者が認知症を発症する可能性が増えると言われています。
2030年には高齢者5人に1人以上が認知症という推計もあります。
平成29年版高齢社会白書より引用
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/zenbun/29pdf_index.html
認知症に対する不安
認知症に罹患してしまうと、その症状の程度によってはこれまでの社会生活を送れなくなる可能性があります。
認知症に罹患し、「意思能力」を欠いてしまうと「契約締結」・「契約の取消し」・「遺言作成」・「複数人での法人設立」などが出来なくなります。
民法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
第二節 意思能力
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
政府が行った世論調査で、認知症に対する不安の統計があります。
内閣府世論調査より引用
https://survey.gov-online.go.jp/
これまでの社会生活を送れなくなることにより、「人に迷惑をかけるのではないか」という心配事が上位に来ていることが分かります。
成年後見制度の利用者増
代表的な認知症対策として、成年後見制度が挙げられます。
家庭裁判所より選任された後見人が、被後見人の財産管理及び※身上監護を行います。
※「身上監護」とは、被後見人の生活、治療、療養、介護などに関する法律行為を行うこと。
※実際に被後見人を介護するなどの「身体介護」は行いません。
高齢化社会の進行に伴い、その件数も右肩上がりとなっています。
厚生労働省ホームページ 成年後見制度の現状より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/001102138.pdf
成年後見のメリット・デメリット
<メリット>
成年後見制度のメリットとして、下記が挙げられます。
①詐欺や不要な契約を取り消すことができる。
②預貯金の管理ができ、不要な使い込みも防げる。
③介護施設等との「契約」ができる。
④成年後見人が遺産分割協議に参加し、相続手続を進めることができる。
これらのメリットの基本は、「成年後見人は成年被後見人に代わって法律行為ができる」、「本人が単独で行った法律行為を取り消すことができる」
ということです。
<デメリット>
成年後見制度のデメリットとして、下記が挙げられます。
①手続きに手間と費用がかかる。
成年後見人を申し立てるには、大量の資料集めと申立費用が必要になります。
②専門家が後見人になる場合は費用がかかる
専門家が成年後見人になる場合には、管理する財産の金額によって月額2~6万円程の費用がかかります。報酬は、被後見人が亡くなるまで毎月かかります。
さらに、選ばれた成年後見人を解任することは基本的にはできないため、終わりが予測しづらいランニングコストがかかることとなります。
③家庭裁判所の選任に寄るため、親族が後見人になれるとは限らない。
専門家を成年後見人にするとコストがかかるからといって、親族が後見人に慣れるとは限りません。成年被後見人を取り巻く状況を考慮し、家庭裁判所の判断にゆだねられることになります。
④不動産、株式投資などの積極的な資産運用はできない。
成年後見制度は、基本的には本人(成年被後見人)の財産を目減りさせない運用をします。
ですので、不動産売却や株式・FX投資などといった積極的な資産運用は家庭裁判所が認めない傾向にあります。
⑤生前贈与をはじめとした相続対策ができない。
認知症によって意思能力が無いと判断されると、財産を処分する能力(意思能力)がないとみなされ、生前贈与が無効となってしまいます。
認知症の進行程度によっては可能となるケースもありますが、基本的には生前贈与は出来ないと考えたほうがいいでしょう。
⑥後見制度を途中でやめることは原則できない。
上記②にも記載しましたが、成年後見制度は基本的には被後見人の死亡まで終了しません。
被後見人が判断能力を取り戻して本人・一定の親族・後見人等の申立てによって、後見開始の審判が取り消されますが、現実的には少ないケースです。
家族信託とは
信託とは、信頼できる相手(家族でも第三者でも)に「自分の財産を移転させ、その管理・処分などを任せる」という制度です。 この制度をうまく使うことによって、これまで終活の手段として用いられてきた遺言や成年後見制度では出来なかったことを実現できる場合があります。この信託を家族間で行うことを一般的に「家族信託」といいます。
家族信託のメリットについて
家族信託は新しい認知症対策として注目されています。
家族信託の基本は、「意思能力がある段階で、自分の財産を受託者に移動し、その利益を任意の人(基本的には本人)に渡す」です。
本人の財産ではなくなるので、成年後見ではできなかった積極的な財産運用や処分が可能となります。
家族信託は契約行為であるため、ご本人の意思能力が残っていることが大前提となります。
「事後の成年後見」、「事前の家族信託」と言うことです。
弊所では司法書士、税理士と協力して、信託登記や信託終了後の税金に関してもサポートさせていただきます。
家族信託の活用例
ケース. 1
認知症に備えて信託を活用
認知症になってしまうと、判断能力が亡くなってしまうわけですから、様々な法律行為が出来なくなってしまいます。例えば、契約の締結、配偶者やお孫さんへの贈与、遺産分割協議への参加などなど。
例えばご自身が賃貸物件を所有されていたとして、新しい入居者様との契約は結べません。 このような場合に息子さんにご自身の賃貸物件を『信託』し、ご自身が認知症になってしまった後は息子さんに賃貸物件の運用をしていただき、賃料をご自身が受領するということ可能となります。
ケース. 2
遺産の後継ぎ遺贈をしたい
「自分には先妻との間に長男が一人いるが、現在の後妻との間には子どもはいない。先妻は既に死亡しており、子どもと後妻の仲は良くない。自分が亡くなったら遺産を後妻に相続させ、後妻が亡くなった後は子どもに相続させたい」という希望も、信託の仕組みを活用すれば実現できます。
このような、いわゆる後継ぎ遺贈は、遺言では無効とされる見解が有力なため、信託の活用が考えられます。
ケース. 3
持分の信託
所有している不動産が共有の場合、例えばご自身が1/2、配偶者が1/2といった持分のケースで、1/2を持っている相手方が認知症になってしまった場合、その不動産を売却しようにも判断能力を失ってしまっている為それができません。成年後見制度を利用しても家庭裁判所の判断を仰がねばならず、そもそも後見人の選任に数ヶ月の時間を要します。 そこで、相手方が認知症になる前に長男にその持分1/2を信託するという対策をとることが考えられます。 信託を活用することによって、共有者が認知症になってしまったとしても、不動産の処分を成すことが可能となります。
家族信託のポイント
信託の倒産隔離機能
仮に信託を任された人(受託者といいます)の財産状況が悪化しても、受託者が管理している信託財産は影響を受けない仕組みになっています。
信託財産の使用目的を限定することができる
「契約」で信託の内容、つまり財産の使い道を取り決めることができ、さらにはその取決め内容が守られるかという事を監視する役割の監督人も設置することができますので、「自分が亡くなったあとは財産はどのように使われるのだろうか・・・」という不安を抱えている方に有効です。
成年後見と家族信託のちがい
成年後見制度は、判断能力が低下した方を守るための制度なので、原則財産を維持する(減らさない)ことしかできません。 成年後見と民事信託の違いについては下記の表を参照ください。
後見制度 | 家族信託 | ||
法定後見人 | 任意後見人 | 受託者 | |
存続期間 | 本人の死亡まで | 本人の死亡まで | 始期も終期も自由に設定可能 |
権限 | 財産管理及び身上監護※ ※「身上監護」とは、被後見人の生活、治療、療養、介護などに関する法律行為を行うこと | 同左 | 信託財産の管理・処分 |
財産の所有者 被後見人(本人) | 被後見人(本人) | 同左 | 受託者 |
財産の積極的運用・処分の可否 | 財産を維持しながら本人のためにのみ支出する | 同左 | 受託者の判断において、受益者のために信託目的の範囲内で自由な処分・運用が可能 |
不動産の処分の可否 | 家庭裁判所の許可が必要で、処分のための合理的な理由が求められる。 | 家庭裁判所・後見監督人の同意も不要で、処分可能。 | 信託契約において受託者に権限が付されていれば可能。 |
報告先 | 成年後見人が定期的に家庭裁判所に報告 | 任意後見人が定期的に家庭裁判所に報告 | 受託者は、年に1回財産状況開示書類を受益者に報告。 信託の内容によっては毎年1月31日までに計算書を税務署に提出 |
犯罪被害への対応 | 被害を回復できる | 契約を取り消せない | 受託者に取消権はないが、被害を最小限にする効果が期待される (信託の倒産隔離機能) |
監督機関 | 家庭裁判所又は後見監督人による監督を受ける | 必置の任意後見監督人により監督を受ける | 信託設計で信託監督人を任意に設定することができる |
報酬 | 家庭裁判所が決定 | 自由に設定できる | 自由に設定できる |
ランニングコスト | 職業後見人 ⇒月2~6万円 親族 ⇒月1~2万円 | 契約書で取決めた後見人の報酬額+後見監督人月1~2万円 | 信託契約書の取り決めによる |
家族信託と税金について
家族信託の設計内容によっては相続税や贈与税が課税されます。 家族信託の組成時に、どこでどのような税金が発生するのかを確認しないと、思いもよらない費用が発生することがあります。 当事務所では信託組成時に提携税理士をご紹介させていただき、その様なリスクを回避させていただきます。 また、信託では遺留分にも十分配慮しなければならないため、税金と合わせて遺留分のチェックも行います。
家族信託設定の流れ
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お問い合わせ
平日はお仕事で忙しいという方のために、土日もご相談を受け付けております。来所でもご自宅へお伺いする形でもどちらでも対応しています。
先ずはお電話(平日9時~18時)にて無料相談日をご予約下さい。
土日祝日も対応いたしますので、ご予約下さい。
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無料相談
対面相談にて時間をかけて丁寧にヒアリングいたします。
面談では相談者様の不安解消に努めさせていただきます。
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ご契約
ご依頼を頂きましたら、信託設定に必要な戸籍謄本等の書類収集を開始いたします。
専門家が面倒な手続きを一手に引き受けます。
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公証人役場にて信託契約書作成(信託契約書を公正証書にする場合)
平日はお仕事で忙しいという方のために、土日もご相談を受け付けております。来所でもご自宅へお伺いする形でもどちらでも対応しています。
先ずはお電話(平日9時~18時)にて無料相談日をご予約下さい。