自筆証書遺言の押印が不要に? 民法改正で変わる遺言書のルール

自筆証書遺言に押印が不要になる

自らが「自筆で」遺言書を作成するとき、署名だけでなく印鑑も必要だというイメージを持っていらっしゃる方は多いと思います。

自分で作成する「自筆証書遺言」では、現在、法律上の要件として押印が求められています。

しかし、2026年6月に公布された民法等の一部を改正する法律により、この押印の要件が見直されることになりました。

今回は、自筆証書遺言の押印に関する改正内容や施行時期、そして相続トラブルを防ぐために気を付けたいことについて解説します。

1.自筆証書遺言の押印が不要になる

自筆証書遺言とは、遺言を残す本人が自分で作成する遺言書のことです。

現在の民法第968条第1項では、遺言者が遺言書の全文、日付、氏名を自書し、これに印を押さなければならないと定められています。

今回の民法改正では、この押印の要件が廃止されます。

改正前と改正後の条文を比較してみましょう。

民法第968条第1項の新旧対照

【改正前】

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

【改正後】

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書しなければならない。

改正後の条文では、「これに印を押さなければならない」という文言が削除されています。

つまり、改正法の施行後は、法律上、押印がなくても自筆証書遺言を作成できるようになります。

なお、今回の見直しは遺言書本文だけではありません。パソコンなどで作成した財産目録への押印や、遺言書の訂正箇所への押印についても、要件が見直されます。

2.いつから押印が不要になるのか?

今回の改正法は、2026年6月24日に公布されました。ただし、公布された日から直ちに新しいルールが適用されるわけではありません。

自筆証書遺言などの押印要件の見直しは、公布の日から1年以内に、政令で定める日に施行されます。

2026年10月19日時点では、具体的な施行日は確定していません。

したがって、施行されるまでは、これまでどおり押印が必要です。

施行前に作成する自筆証書遺言については、改正後のルールを先取りして押印を省略することはできません。

遺言書の作成を検討している方は、施行日がいつになるのか、最新の情報を確認するようにしましょう。

遺言制度の見直しに係る改正のうち押印の任意化等に関する施工日
遺言制度の見直しに係る改正のうち押印の任意化等に関する施工日

3.押印が不要になっても、遺言書の作成ルールは残る

押印の要件が廃止されると聞くと、遺言書を自由な形式で作成できるようになると感じるかもしれません。しかし、今回の改正で自筆証書遺言の方式そのものがなくなるわけではありません。

改正後も、自筆証書遺言の本文は、遺言者本人が全文・日付・氏名を自書する必要があります。

一方、財産目録については、従来からパソコンで作成したものや、不動産の登記事項証明書、通帳のコピーなどを利用できます。改正後は、こうした自書によらない財産目録への押印も不要となりますが、各ページへの署名は引き続き必要です。

また、遺言書の内容を訂正する場合にも、訂正箇所を示し、変更した旨を付記して署名するなど、法律で定められた手続が必要です。改正後は、この訂正に関する押印要件も廃止されます。

このように、今回の改正は押印の要件を見直すものであり、遺言書の全文・日付・氏名の自書など、基本的なルールは引き続き守らなければなりません。

4.押印が不要になっても、押印する意味はある?

押印が不要になった後も、条文上は押印そのものを禁止する規定にはなっていないため、押印すること自体は可能と解釈できます。

ただし、押印があるからといって、遺言者本人の意思に基づいて作成されたことや、遺言の有効性が当然に認められるわけではありません。遺言書の作成時の状況など、個別の事情も踏まえて判断されることになります。

押印するかどうかだけにこだわるのではなく、遺言者本人の意思が明確に伝わる内容にしておくことが大切です。

5.遺言書を作成するときに気を付けたい相続トラブル

押印の要件が廃止されても、相続トラブルがなくなるわけではありません。

遺言書を作成する際には、形式を守ることに加えて、次のような点にも気を付ける必要があります。

認知症などによって、遺言の有効性が問題になることがある

押印があっても、遺言者が遺言の内容やその結果を理解できる状態ではなかった場合、遺言の有効性が問題になることがあります。

遺言書を作成する際には、本人が自分の意思で内容を決めていることが大切です。将来、相続人の間で疑いが生じることを防ぐためにも、本人の判断能力が十分にあるうちに準備を進めることが望まれます。

認知症の高齢男性

遺言書の内容が曖昧だと、相続人同士の争いにつながる

例えば、「自宅は長男に任せる」「財産は家族で仲良く分ける」といった表現では、誰がどの財産を取得するのかが明確でない場合があります。

財産の分け方がはっきりしていないと、相続人同士で解釈が分かれ、争いの原因になることがあります。

誰にどの財産を相続させるのか、できるだけ具体的に記載しておくことが大切です。

相続トラブル

財産の分け方によっては、不満が生じることもある

特定の相続人に財産が偏っている場合、ほかの相続人が不公平だと感じることがあります。

遺言書を作成する際には、財産の内容や相続人の状況を整理し、それぞれの生活状況なども考慮しながら、財産の分け方を検討することが重要です。

また、相続人には、一定の条件のもとで最低限の取り分を請求できる「遺留分」という権利が認められています。遺言書の内容によっては遺留分をめぐる問題が生じることもあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。

6.遺言書は、形式だけでなく内容も大切

今回の民法改正により、自筆証書遺言は押印の面で作成しやすくなります。

しかし、押印が不要になったからといって、遺言書の作成が簡単になるわけではありません。

法律で定められた方式を守ることはもちろん、本人の意思が明確に伝わる内容にすることも大切です。

相続トラブルを防ぐためには、財産の内容や相続人の状況を整理し、誰に何を相続させるのかを具体的に記載しておくことが重要です。

遺言書は、ご自身の財産を大切な人に引き継ぐためのものです。作成方法だけでなく、残された家族が困らない内容になっているかという点も意識して準備を進めましょう。

遺言書の作成や相続対策について不安がある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

【参考資料】

法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html?utm_source=chatgpt.com